エレベーター
あるお客様の会社が、オフィスを移転され、そこで初めて
打ち合わせをすることになりました。
どんなオフィスになったのかワクワクしながら向かいました。
そこは4階建ての、地方にしては珍しいおしゃれなビルで、玄関を入ると向かって左側に小さめのエレベーターがありました。
私はネームプレートでオフィスが3階であることを確認し、エレベーターに入って3階のボタンを押しました。
エレベーターは静かな音をたてて、スムーズに3階に上がり、到着を知らせる音が上品に鳴りました。
そして私は扉が開くのを待ったのですが、いつもと様子が変です。いつまで待っても扉がひらきません。
あれ?っと思って、表示を見直したりしていたのですが、いつまで待っても扉が開きません。
「エレベーターが故障している!」
私は瞬時にそう判断しました。しかし慌てず、何か連絡方法がないか探しました。
こういう場合のために、エレベーターにはたいがい外部と連絡がとれるインターフォンか電話のようなものがあるはずです。
しかし、いくら探してもそのようなものはありません。
「え!」
いよいよあせってきました。
「これはまずい。閉じ込められた!」
私は、事態を把握しようとしました。とりあえずエレベータの外と連絡をとったほうがいいと思い、扉に向かって声を出そうと思いました。
「すみません!」
「すみません!」
扉に向かって出来るだけ大きな声で何度も叫びました。
すると何か私の背後で物音がしました。不思議に思って振り向くと
なんと背面にも扉があって、そこが開いていて荷物を積み込もうとされている数人の男性の方が、こちらを見て苦笑いされているではありませんか。
私は「あっ」と声を出しましました。
そうです、このエレベーターは両面開きで、入口と出口が2つ向い合せにあるエレベーターだったのです。
私はこのようなエレベーターに乗ったのは初めてでした。
普段しているように、エレベーターに乗り込んで扉の前を向いたまま立って、後ろの扉が開いている事に気が付きませんでした。
そして閉じ込められたと思って大声で助けを求めていたのです。
私は、やっと事態が把握できました。
乗り込もうとされてる3階の男性の方に、恥ずかしい思いですこし会釈して、苦笑いをしながら通り過ぎました。
(お互いに苦笑いの連発だったと思います)
それから、何もなかったような顔には、なかなかなりませんでしたが、無事目的のお客さんの事務所の扉を開ける事ができました。
これも「穴があったら入りたい」シリーズでした。