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ロゴノココロエ

赤坂村と黒川村

2017.10.26 :

 むかしむかしあるところに、山をはさんで、赤坂村と黒川村という二つの村がありました。この二つの村は、どちらもたいそう貧しく、いつも食べ物や、土地の境界の事で争っていました。

 この様子を見ていて、悲しんでいたのは、赤坂村と黒川村のちょうどまんなかにあるぜんとく山のぜんとく寺の和尚でした。

「このままでは、いつかは戦になってしまうかもしれんのう」

 とたいそう心配しており、ある日、あることを思いつきました。

「あかんでもともとじゃ。ひとつためしてみるか!」

 そうして和尚はトコトコ山を降りていき、赤坂村と黒川村の両方の村に張り紙をしました。

「こんどの満月の夜、赤坂村と黒川村の大切な話し合いをするので、寺の境内に、それぞれの村長は知恵者を3人ずつ集めてくれ」

 それを見た赤坂村と黒川村は、どちらもたいそう興奮しました。

「和尚がわしらを呼んでなにをするんか?」
「きっといよいよ決着を付けようという事じゃないのか?」
「うちらにはとびきり、賢いもんがおるそ!」
口々に、思い思いに言い合いました。

 そしていよいよ満月の夜になりました。たぬきが踊りそうな、よく晴れた気持ちのよい、初夏の夜です。

 赤坂村と黒川村はそれぞれ、村長が選りすぐりの知恵者3人を引き連れてトコトコ、ぜんとく山に登ってきました。

「よー集まってくたのう。きょうは、ちと二つの村で遊びをやろうと思ってるんじゃ!」
 集まった皆の前で和尚が言いました。

「遊びじゃと!」
赤坂村と黒川村の者たちはがっかりしました。

「子どもじゃあるまいし。知恵比べかなんかするんか?」
赤坂村と黒川村の者たちは口々に言いました。

「いやいや知恵比べというたら知恵比べじゃが、ちょっと変わった知恵比べじゃ」

「何じゃ」

「悪口合戦をやろうと思っとる」

「悪口合戦?」

「そんなもんはいつもやっとるぞ!」

「いやいやそうじゃない。悪口合戦というても、相手の村の悪口を言うわけではない。自分の村の悪口を言う、悪口合戦じゃ!」

「え 自分の村の?」

「自分の村の悪いとこを言い合って、一番悪い事を言ったほうが勝ちじゃ!そして今後、負けた村は、勝った村に従う。これでどうじゃ」

 二つの村の者たちは、一旦拍子抜けしましたが、「今後、負けた村は、勝った村に従う」という条件で、急にやる気がでてきました。

「悪いところなら負けへん、さあやるぞ!」

 くじ引きをして、まず最初に赤阪村から言うことになりました。

 赤坂村の知恵者の一人が、境内の真ん中へ出てきて大きな声で言いました。
「わしら赤坂村は、たくさん作物を作って、良いように見えるかもしれんが、実は土地がやせてて作物が全然おいしくないぞ!」「これでどうじゃ!」

 それを聞いた黒川村の者たちは最初からの以外な話に動揺しました。黒川村は、それより悪い話を出さなくてはなりません。しかしあまりひどい話もかっこ悪いので、それより少しひどい話にしました。

 黒川村の知恵者の一人が、境内の真ん中へ出てきて大声でいいました。
「わしら黒川村は、田んぼに水がたくさんありそうにみえて、溜池がもって全然水が足りない。おかげでできる米はパラパラじゃ!」「これでどうじゃ!」

 それを聞いた赤坂村の者たちは予想外のひどい話で少しひるみました。でも負けてはいません。また境内の真ん中へ出てきて大声でいいました
「赤坂村は、みんな普通の顔をしておるが、実は村の半分はどうしようもないあほうじゃ!」「これでどうじゃ!」

 それを聞いた黒川村はまたまた予想外のひどい話に動揺しました。敵もなかなかひどい話を出してくる。これは負けてはいられません。
黒川村はまた境内の真ん中へ出てきて大声で次の話をしました。
「わしら黒川村は、みんな大きな体をしておるが、実はまったく力がなくて働かないで飯ばっかり食らっとる!」「これでどうじゃ!」

 話はどんどん続きます

 赤坂村が出てきて大声で言いました。
「わしら赤坂村は女房がみんなブサイクじゃ!」「どうじゃ!」

 黒川村が出てきて大声で言いました。
「わしら黒川村は、うらぎりもんが多い!」「どうじゃ!」

 赤坂村が出てきて大声で言いました。
「わしら赤坂村は、嘘つきじゃ!」「どうじゃ!」

 黒川村が出てきて大声で言いました。
「わしら黒川村は、やる気が無いものがいっぱい居る!」「どうじゃ!」

 赤坂村が出てきて大声で言いました。
「わしら赤坂村の者は、ケチじゃ!」「どうじゃ!」

 黒川村が出てきて大声で言いました。
「わしら黒川村は、ひきょう者が多い!」「どうじゃ!」

 このようにして、お互いに自分の村の悪口を一晩中、かわりばんこにどんどん言い合って 月夜のぜんとく山はふけていきました。
「自分の村の悪口」合戦は、明け方まで続きました。

 ようやく東の空が白み始めた頃、ほとんど自分の村の悪いとこを言い尽くしてしまい、赤坂村と黒川村の者たちは、クタクタになってしまいました。

 そして、どういうわけか、どちらの村の者たちもだんだん、相手の村のことが気の毒になってきました。いままで、良いように見えていたことが、そうでない事がよくわかってきたのです。また同時になんとなく温かいような親しみを感じるようになってきたのです。

 和尚がいいました

「どうじゃろう このへんで、お互いにお互いの事を許してやってはどうかのう」

 両方の村の知恵者はそれもそうだと思いました。

 赤坂村と黒川村は、このいきさつをお互いの村に帰って皆に細かく話しました。お互いの村の者も皆、全く同じ気持ちになり、相手の村を許し合うことに賛成しました。

 それからというもの、この二つの村は、火事や地震、ききん、伝染病にも一緒に協力して立ち向かい、乗り越えられるようになりました。相手の村のことを、自分の村のことのように考えられるようになりました。また、お嫁さんもお互いにたくさんもらいあい、親戚もたくさんできました。そして山をはさんだ赤坂村と黒川村は、よその村からもうらやましがられるくらいの仲の良い村になりました。

 和尚はもういませんが、初夏のよく晴れた月夜には、ぜんとく山のぜんとく寺で、赤坂村と黒川村のお祭りが盛大に開かれます。今では「自分の村の悪口」合戦は、必要無くなりましたが、昔こんな話があったと言うことだけが、いつまでもいつまでも語り継がれいきました。

 とさ。

 しらんけど。

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