ひょう兵衛
むかしむかし、あるところに何をやってもすぐに疲れて飽きてしまう、ひょう兵衛というひとりの若者が住んでいました。
ひょう兵衛は、時々気持ちを入れ替えて、「今日から働くぞ」と、近くのお百姓さんの手伝いをしたり、大工の見習いをしたりしたのですが、すぐに疲れてしまってやめてしまうといった毎日でした。
「どうしてわしはこんなに、体が弱く、気持ちも弱いんじゃろう」
夕暮れの空をぼんやり眺めながらいつも悩んでおりました。
しかしそうかと言って、悩んでばかりで反省して何かをしようという気には、なかなかなれないでいました。
ある日、寺子屋のお師匠さんを探しているという張り紙が、村のあちこちに見られるようになりました。ぶらぶら歩いていたひょう兵衛は、その張り紙をみて
「これだ!」と思いました。
「わしは体が弱くてすぐに疲れてしまうが、頭を使うことには自信があるんじゃ」と思いました。
さっそくお寺に売り込みに言って、次の日から子どもたちに、「読み書き」を教える事になりました。
しかし、当日になってよくよく考えてみると、自分は「読み書き」はほとんで出来なく、教えることなど出来ないことに気が付きました。
結局、ひょう兵衛は、お寺には何も連絡せずに勝手にやめてしまいました。
そんなことを繰り返しているうちに、ひょう兵衛の悪い噂はどんどん広がり、ついにまともに相手をする者は、誰一人いなくなってしまいました。
「どうしてわしは、何をやってもだめなんじゃろう。」
稼ぎもないので、食べる物ももう少しでなくなってしまいます。
ひょう兵衛は、いつものように途方にくれて一人、夕暮れの空をぼんやり眺めていました。
その時です。ぼんやり眺めていた西の空に、大きく光っていた星があったのですが、それが少し大きくなっていくよいうな気がしました。
最初は気のせいかと思っていたのですが、たしかにどんどん大きくなって、こちらに近づいて来るようです。
ひょう兵衛は、どういう事なのか分かりませんでした。
その光は、さらにどんどん近づいてきて、なんとついにひょう兵衛の家の庭の上で、宙に浮かんだまま止まりました。
今までに見たことも無い、不思議な丸く平たい金属のようなものが、光りながら浮いています。
そしてその金属のようなものの、窓のようなところから、こちらを見ている者がいました。頭はツルツルで、病気のような弱そうな顔が見えました。
ひょう兵衛があっけに取られて、見上げていると
突然、大きいとも小さいともわからないような声で、語りかけられました。
「われわれは、ちょろこい星人だ。」
「は?」
ひょう兵衛は意味が分かりませんでした。
「お前は訳あって、この地球で生まれ育ったが、実はわれわれと同じちょろこい星人なのだ、今日はこの円盤でお前を迎えに来てやった。」
ひ弱そうなわりに、偉そうに語りかけます。
そこまで言うと窓からのぞいていた人影は、「ふう」とため息をついて、疲れたような様子を見せました。
「そうじゃったのか わしが皆より体力がなくて、飽きっぽくて、少しアホなのは、ちょろこい星人じゃったからなんか!」
ひょう兵衛はすべてを悟りました。
ひょう兵衛は、家の裏からはしごを出してきて、円盤にかけました。ゆっくり登っていくと、静かな音をたててハッチが開きました。
ひょう兵衛は吸い込まれるようにハッチの中へ入っていきました。
円盤は少しの間、低い音を出して、静止していましたが、やがてふいに空に舞い上がったかと思うと、もうすっかり暮れてしまった西の空へ消えていきました。
とさ。
おしまい。