取り調べ
京都で暮らしていた頃、私の住んでるアパートの二軒隣で強盗傷害事件が起きました。
日曜日の朝、私がぼんやり過ごしている時、アパートの近くに突然大きな音をたててパトカーがやってきて、大勢の警察官が忙しく立ち振る舞っているのをベランダから見ました。そしてこれはただ事ではないと感じました。
そのうち、現場は大きな人だかりになり、
「これは見に行かなければ!」
と何にも考えずに寝起きしているジャージ姿で、ボサボサ頭で、とりあえず二軒隣のマンションの現場を見に行きました。
現場は、通行止めのテープが貼ってあり、大勢の人が様子を伺っていました。
私はそこで、集まっている人達が口々に事件の様子を話しているのを聞いて、事件の大体の内容を知りました。
犯人は、このマンションに住む若い女性の部屋に刃物を持って侵入し、現金を10万円ほど奪って逃走したということでした。 女性は少し怪我をしたということでしたが、命に関わるようなことはなく無事だったようです。
その日は、しばらくそこにいて様子を見ていましたが、何も進展がなさそうなので自分のアパートにもどりました。
その夜 ニュースを見ました。
犯人は20歳前半。紺色のスタジアムジャンパーに、足跡はコンバース。髪は長髪ということでした。
「あれ ?僕の普段の格好にそっくだ」
その時ぼんやりそう思いましたが、この頃の若者は大体スタジャンを着ていて、コンバースを履いていて、少し長髪でした。
その後、それからその事件の事もどこでも話題にならなくなり、誰もが感心を示さなくなり、私もすっかり忘れていました。
話はここからです。
ある日その当時、私が勤めているデザイン会社に電話がかかってきました。
京都〇〇署から、「以前近所で起きた事件について話が聞きたいので、警察まで来てください」と呼び出されました。
何のことかすぐには思い出せませんでしたが、例の事件の事を思い出し、なんだろうと思いながら了解して電話を切りました。
あくる日少し会社を抜けさせてもらって、自分が知っている事は何も無いけれど、犯人逮捕に少しでも役に立てばと思って警察署に行きました。
案内され中へ入っていくと、とても愛想のいい刑事さんが2人いらっしゃいました。初めて見る刑事さんということもあり、私も興味があり、話は和やかに進みました。
おおまかに事件の内容を説明されたあと、私自身の事をいろいろ聞かれるようになりました。
そして、最初は、「こんなこと関係あるのかなあ」などと思いながら答えていたのですが、色々聞かれているうちに、なんと私が犯人と疑われていることがわかってきました。
私は「へーそうなるのか!」と、とても驚きました。
そしてついにアリバイまで聞かれてしまう始末。気がつくと左側には大きな鏡。これマジックミラーで中に被害者がいるのかなあと思ったことも覚えています。
誰かが、私が現場をぶらぶら見に行っていたところを見ていたのか、年格好から探し出されたのかわかりませんが 、呆れて物も言えませんでした。
冤罪って、こんな風になっていくのかなあと思ったりもしました。
その日はそれ以上聞かれず解放されました。そして
「これが前科にある人ならこんなもんではすみませんよ」
と笑いながら言われました。「ぞっ」としました。
お仕事とはいえ、どんなことでも調べていかなければならない警察の人の立場もわかりますが、まさか自分が疑われる立場になろうとは夢にも思いませんでした。
その後、なんの連絡もなかったので多分、犯人が捕まったのでしょう。
この取調中に、もしマジックミラーの中で被害者が私の顔を見て、たまたま少し似ていて、
「この人です。この人が犯人です!」
と言ってたら、私はどうなっていたんでしょうねえ。